教授のご挨拶

教授のご挨拶

 この度、2021年11月1日付けで佐賀大学医学部胸部心臓血管外科学講座教授を拝命いたしました蒲原啓司と申します。私は、1993年に佐賀医科大学を卒業後、当教室に入局し胸部心臓血管外科の世界に飛び込みました。早いもので今年29年目となります。途中、約3年間の基礎研究経験以外は、実臨床の場で、胸部心臓血管疾患を抱える患者さんへの外科治療が私の本分でありました。
 当教室は、1981年4月に宮本忠臣先生を初代教授として開設され、今年で40年目となります。その間、施行された胸部心臓血管外科手術数は、1万例を超え佐賀の胸部心臓血管外科診療に大きく貢献してまいりました。今回、教授就任に当たりまして私の役目としては、先達により築かれた伝統を継承しつつ佐賀の地域医療に貢献すべく診療、教育、研究に邁進することであると考えております。
 診療面においては、”個々の患者に最適な医療を提供し社会復帰してもらうこと”を共通目標と定め、患者さん一人一人にしっかりと向き合い組織としてチームワークを大切に診療していく所存です。外科医の目的は、“手術すること”ではなく、“手術治療によって安心した生活を取り戻してもらうこと”であります。これこそが、佐賀県唯一の大学病院であり、地域医療における“最後のとりで病院”として我々が担うべき役割であると信じています。そのためには、日々発展する医療において、いち早く高度先進医療を取り入れ提供することも重要です。当教室では、小切開による心臓手術(MICS)やカテーテルによる大動脈弁置換術(TAVI)或いは大動脈瘤手術(ステントグラフト内挿術)といった低侵襲手術を導入することで、治療選択の幅を広げています。今までは、年齢、余病等で従来の外科治療を断念せざるを得なかった方にも治療を行い、手術前と同様の生活に復帰してもらえる機会が格段に増えていくと思われます。
 教育面においては、将来、佐賀の地域医療を担う優秀な外科医育成が私の大きな責務と考えます。佐賀大学胸部心臓血管外科グループは、誇るべき関連病院(心臓血管外科6施設、呼吸器外科2施設)を有しております。ここ数年、大学病院と関連病院の年間手術症例数は、心臓血管外科が約2000-2500例、呼吸器外科が約450-500例にのぼり当教室の先生方には、イーブンな診療経験と研鑽の場を提供できていると自負しております。このような環境の下、大学が中心となりグループ全体で、リーダーシップを有しチーム医療に秀でた胸部心臓血管外科医を丁寧に育成してゆきたいと思います。
 研究面ですが、近年、医学分野では、組織工学による臓器再生をテーマとした研究、開発が加速しています。当教室でも、接着系細胞が元来有する細胞凝集現象に着目し、それを一つの単位として複雑な形状組織を作成するバイオ3Dプリンタを用いた研究を関連分野の方々のご協力のもと行っています。現在、最も力を注いでいるのが、この技術を利用した血管プロジェクトです。将来的には、末期腎不全患者さんへの透析ブラッドアクセス用人工血管、冠動脈バイパス術のための小口径血管、足関節以下の遠位バイパス用小口径血管など、外科的血行再建に応用できる新たな人工血管としての臨床応用を目指しています。
 今後、いかに魅力ある教室にしていくかという点で、臨床及び教育面では、大学病院―関連病院群間の連携強化と教育システムの充実、研究面では、再生血管プロジェクトの臨床応用と新たな再生臓器(弁膜、心筋)作成への基礎研究の推進というテーマを軸に教室員一丸となって推し進めていきます。そのために、忘れてはならないのは、当教室40年余りの歴史の中で脈々と受け継がれている“きつい仕事をみんなで明るく楽しく乗り切る”という精神です。私が入局当初から、どんなに緊急手術が立て込み、きつい状況であっても患者さんの救命という目的に向かって全員で取り組む諸先輩方の姿勢を目の当たりにしてきました。そして、いつしか自分も実力をつけて、この“胸外軍団”の一員として認められたいと必死に先輩方の背中を追いました。この精神は、現在、大学病院及び関連病院で共に働く、若手、中堅の先生方にも間違いなく受け継がれております。今回、教授就任に際し思うことは、この頼もしい仲間と共に“胸外軍団”の更なる躍進の一役を担いたいということです。何とか、この役割を全うできるよう精進してまいりますので、皆様のご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。